お互いにやることを終えて向かったけれど、開演時間は過ぎていた。でも走らず話す余裕が持てたのは、夜の市街地を歩く時間さえも嬉しかったからかもしれない。
春にある舞台のお手伝いをしていたパートナーが、今まで裏方でまったく機会のなかったお芝居を観て、また舞台を観てみたいというのでチョイスしたのが「鎌塚氏、腹におさめる」。何の知識もなく選んだあとで公式サイトで予習でもしてみようかと調べてみたら、2011年よりスタートした鎌塚氏シリーズの4作目だった。コミカルでウィットに富んだテンポの良いストーリー展開で笑いながら楽しめた。つまらない(または疲れている)と寝てしまうだろうなぁという心配は無用だったようで、隣から聞こえる笑い声に、内心しめしめと心を掴めたような気持ちになった。
終演後はすっかり外も冷えていたけれど、お互いに満足しているので足取りは軽く、元気をもらって帰ってきた。お腹がすいたので近くのスペイン料理店に入る。店員が季節料理を紹介してくれ、うさぎのアヒージョといのししのベーコン、松茸のオムレツがお勧めだというのでそれらを注文した。いのししとうさぎはそれぞれの干支になるので共食いだのなんだの言いながらも始めにでてきたベーコンはすでに加工された肉、腹ペコなのもあり食がすすむ。
オムレツのお皿もきれいになった頃、うさぎのアヒージョがやってきた。わたしたちは衝撃を受けた。うさぎの顔が皿の上にそのままいる…。二人しばらく無言。でもカウンター越しのシェフもサーブした店員も、「頬が柔らかくて美味しいんですよ〜!」と口を揃えていう。これまでジビエ料理を食べたことはあったが、いざ目の前にあるとナイフがなかなか入らなかった。自分が日頃命をいただいている感覚がなかったのだと、強烈に感じた。いくらそういう話を聞いても読んでも、そのときの共感は軽いものだったのではないかと思うくらい、突き刺さる実体験は本物だった。お店側にしたら、頼んでおいて何言ってるんだと思っていたかも知れないけれど、それが正直な感想。お会計を済ませた後店を出るわたしたちを追いかけるように慌てて半分閉まりかけたドアを開けて、「またお待ちしていますね!」と笑顔で見送ってくださって、慌てて来られたものだからドア枠に頭をぶつけて恥ずかしそうに笑う店員さんがまた可愛らしくて、なんだか嬉しかった。