会ったのは3度、連絡は会う前の約束のみ、そんな夫婦が富山を離れて旦那さんの故郷へ帰って行った。初めて会ったのは、富山で閉館することが決まったフォルツァ総曲輪というミニシアターで開かれたイベントだった。映画館で働くスタッフさんにわたしが大好きな方がいて、その女性から紹介された夫婦だった。物腰柔らかな丸メガネの似合う旦那さんと、小柄でパンチの効いたさばさばとした奥さんだった。すぐにこのご夫婦いいな!と感じた。会う回数、話した時間関係なく、感覚的にピン!とくる出会いが時々ある。翌週にわたしの住む街にある居酒屋さんへ飲みに行くのでよかったらおいでと誘ってもらった。
お酒が大好きなお二人と、二人が連れてきた別の男女一組と楽しい時間だった。とても会うのが2回目とは思えないほど打ち解けて話せた。わたしは人からどう思われているかはわからないけれど、こう見えて人見知りする。でも、このご夫婦の前では何もいらない。受け止めてくれるだろう安心感があった。そのままでいい、いいところも駄目なところも、そのままでいいんだと気付かせてくれる。人と違うところも、認めてくれているような包容力。本当に心が温かく、人間らしさを感じる2人なのです。
そんな夫婦が旦那さんのご実家のみかん農家を継ぐといって引っ越しされることになった。もう一度飲みましょう、と一声かけると、そうですね~で終わらない。あちこちに引っ張りだこなはずなのに、予定を合わせてくれた。
3度目のお見送り会にはフォルツァのイベントを主宰されたキュートなライターの方も来られて、ますますにぎやかになった。奥さんの好きなDVDBOXをプレゼントし、お手紙は同席した新聞記者さんが読み上げた。ユーモアたっぷりのお手紙で、ご夫婦への愛情を感じた。わたしは、二人に送るならこれ、と決めていた 谷川俊太郎さんの『せんはうたう』の詩をプレゼントした。酔った勢いで、その場で一冊読み上げた。読みながら、2人のことが大好きだなと思えて、泣けてきて、その場にいたみんなもしーんと聞いてくれて、ご夫婦も目が潤んでいて。
自分が朗読した感動のシーンを書きたいわけではなくて、このご夫婦とのご縁に感謝の気持ちと、この『せんはうたう』が本当にとてもよい本なので紹介したかったわけです。
人と人はつながって、せんになっていく。せんはうたうようにつながっていく。
そう感じられた始終にぴったりな一冊でした。
再会できる日を楽しみにして。