夏のように暑い東京は陽射しが強くて、歩くとだんだんと体がベタベタした。ビルの隙間を歩くと影はまだひんやりしていて、温度差に体がついていかない。
ガラスの外では太陽を浴びた若葉が風に揺れており、クーラーがきいた屋内のフラワーマーケットはまるで避暑地のようだった。花瓶に入ったたくさんの瑞々しい花たちが艶っぽい姿を見せている。大好きなラックスのラナンキュラスやライラック、鉄線を見るとホテルに飾る用と夜に会う友人にプレゼントしたい、と衝動に駆られたがこれから始まる1泊2日の旅で、まだまだ外を歩くのだから確実に持たないからやめときなさいと何度も釘をさされた。選びたい花は暑さで弱ってしまいそうな花ばかりだったから。わたしは花を買う楽しみを諦めたけれど、帰り際に暑さに強いワイルドフラワーを1本買ってもらってサッと包んでもらった包みを持つと、一段気持ちが上がったように嬉しくなった。花を持つと幸せを連れている気持ちになる。出店の時に買いに来てくれるお客さんがみんな嬉しそうに花を抱えて歩いていくときの気持ちを味わった。
夜には東京に住む家族のような友人夫婦と一緒にご飯を食べた。初めて紹介するパートナーと友人夫婦は初対面とは思えないほど楽しそうに仲良く話していたので、嬉しくなってわたしはおとなしくしていたけれど、家にある物の多さとか、掃除が苦手なことを3人からつつかれて気が小さくなった。普段は早朝から夜まで働きっぱなしでほぼ休みのないパートナーは電車に乗って飲みなおす店へ移るのも新鮮で楽しそうだった。夜の気温の低さは少し火照った体にちょうどよくて眠らない街の熱気にドキドキした。1日歩いてお酒も飲んで帰ったホテルでベッドにダイブするといつの間にか寝落ちしてしまって、体の気持ち悪さで起きてシャワーを浴びたのは午前1時だった。(もし花を買ってもこの日は部屋で楽しむ余裕はなかったかもしれない。旅先で賈う花を部屋にいけるのは好きなんだけどな)
翌日は予定外で栃木の足利まで出かけることになった。「藤棚を見に行きたいね」と話していたのは去年の秋頃だろうか。いつになるだろうと期待していなかったことがこんなに早く実現するとは思わなかった。今年は花の季節も駆け足。通常5月に見頃の藤が4月中旬になった。フラワーパークはたくさんの観光客であふれていて、蜂も甘い蜜を吸いにやってきていた。人も虫も、花に引きつけられる。花の魅力はこんなにも偉大だ。その反面、人の多さにはげんなりしてしまった。この数年で海外の観光客が驚くほどに増えた事をここでも実感した。自分が地元に住んでいてチューリップフェアに行かない感覚と同じだな、と思った。おそらくこれが最初で最後の藤棚だろうな。
誕生日もお祝いしてもらった。選んだのは勿忘草のペーパーウェイト。この嬉しさをいつまでも大切に想っていたいから。忙しい中貴重な時間を作ってもらった感謝の気持ちも忘れずに。